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東京地方裁判所 昭和63年(ワ)16237号 判決 1991年1月25日

主文

一  被告は原告に対し、金四億五〇〇〇万円の支払を受けるのと引換えに、別紙物件目録二記載の建物を収去して、同目録一記載の土地を明け渡せ。

二  被告は原告に対し、昭和六三年八月一五日から右建物収去土地明渡し済まで、一か月金七万円の割合による金員を支払え。

三  原告のその余の請求を棄却する。

四  訴訟費用はこれを五分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は原告に対し、金四億五〇〇〇万円の支払を受けるのと引換えに別紙物件目録二記載の建物を収去して、同目録一記載の土地を明け渡せ。

二  被告は原告に対し、昭和六三年八月一五日から右建物収去土地明渡し済まで、一か月金一二万円の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  (土地の賃貸借)

訴外星野某(以下「訴外星野」という。)は被告に対し、別紙物件目録一記載の土地(以下「本件土地」という。)を昭和二三年八月一五日普通建物所有の目的で貸与し、被告は同地上に別紙物件目録二記載の建物(以下「本件建物」という。)を所有して本件土地を占有している。

二  (賃貸人の地位の承継)

訴外星野から本件土地を譲り受けた訴外遠藤ムメ(以下「訴外遠藤」という。)は、昭和六一年四月二一日死亡し、同人の相続人は本件土地を昭和六二年二月訴外中屋商事株式会社(以下「訴外中屋」という。)に、訴外中屋は同年一〇月訴外株式会社シャトレックス(以下「訴外シャトレットクス」という。)に、訴外シャトレックスは翌六三年一月原告に譲渡し、かくして原告は本件土地の賃貸人の地位を承継した。

三  (期間満了)

右借地契約は、昭和四三年八月一五日、当時の本件土地所有者訴外遠藤と被告との間で、約定期間二〇年として更新され、昭和六三年八月一四日その期間が満了した。

(右一ないし三の事実は当事者間に争いがない。)

四  (更新拒絶の意思表示)

原告は、昭和六三年二月八日被告に対して右期間満了日には本件土地賃貸借契約を更新しない旨意思表示し、その意思表示は同月九日被告に到達したと主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。

しかし、本件訴状が同年一一月二五日被告に送達されたことは当裁判所に顕著であり、これによって原告は被告に対し本件賃貸借契約について更新拒絶の意思表示をしたものと認められる。

五  (賃料相当損害金)

原告は、本件土地の賃料相当損害金の額は一か月一二万円であると主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。前記訴提起直前の合意賃料が月額七万円であったことが弁論の前趣旨により明らかで、昭和六三年八月一五日以降の賃料相当損害金の額も同額と認めるのが相当である。

六  (争点)

原告の前記本件土地賃貸借契約の更新拒絶に正当事由があるかどうかが本件の争点である。

第三  争点に対する判断

一  右の各事実と<書証番号略>、原告代表者及び被告本人各尋問の結果、並びに弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

1  本件土地は、前記のとおりもと訴外星野が所有していたが、訴外遠藤、同人の死後その相続人、訴外中屋、同シャトレックスを経て、昭和六三年一月原告がこれを譲り受け、以後原告が所有しているところ、原告は、訴外八富ホーム株式会社(以下「訴外八富ホーム」という。)から東京都中央区新富町にビルを借り受け、同所において従業員二一名を使用し、リゾートマンションの開発事業をしている会社であるが、訴外八富ホームから現在右ビルの明渡を求められており、また、原告は関連会社として原告を含めて七社を有し、全員で約四〇名の従業員を使用しており、本件土地に本社ビルを建築することを計画している。

2  これに対して被告は、前記のとおり昭和二三年八月本件土地上の本件建物を借地権付で買い受け、本件土地を当時の所有者訴外星野から賃借し、以来同所において紳士靴の販売店を営んでいるものであるが、従業員は妻と息子二人の家内営業で、被告自身平成二年九月一四日本人尋問当時すでに六九才の高齢に達しており、他に都内荒川区に一五、六坪の駐車場を所有し、ここから月額一五、六万円の収入を得ている。

3  本件賃貸借契約は前記のとおり昭和二三年八月に締結されたもので、同四三年八月に一度更新され、すでに当初の契約から四〇年を経過しており、本件建物は、本件賃貸借契約が当初締結された昭和二三年八月頃以前に建てられた木造二階建建物で、被告がこれを借地権付で購入し、昭和三三年頃改築したが、建てなおしたことはないし、その後多少の修理をした程度で改築してないので、かなり老朽化しており、建て替えるべき時期に来ていることは被告も自認している。

4  本件土地は都心中央区の商業地に所在し、附近には本件建物のような木造建物は極めて少なく、防火地域に指定されているため、建てなおす際は耐火建築物にしなければならないところ、被告は、昭和四三年一月一七日、当時の本件土地の所有者訴外遠藤との間で、訴訟上の和解をし、同人と被告が隣地所有者と共同してビルを建築することとし、訴外遠藤が昭和五二年一二月末日までに本件土地上にビルを建築する工事に着手しなかった場合には、被告が鉄骨耐火構造建物を建築することを訴外遠藤において予め承諾する旨を約定したが、結局訴外遠藤は右期限までにビルの建築工事に着手しなかったので、被告としてはその後本件賃貸借契約の期間満了の昭和六三年八月一四日までに一〇年以上もの間、自ら本件土地上に堅固な建物を建築することも可能であったのに、全くその建築に着手することはしなかったばかりか、今日においてもその具体的な建築計画すら立てていない。

5  そのほか原告は、被告に対し、本件賃貸借契約の更新拒絶の正当事由を補完するため、四億五〇〇〇万円を支払う旨申出ているのに対して、被告は頑なに、少なくとも明渡を前提とする話合いには一切応じないという態度をとり続けている。

二  以上諸般の事情を総合勘案すれば、原告の本件土地賃貸借契約の更新拒絶には正当の事由があるものと認めるのが相当である。

(裁判官 小川英明)

別紙 物件目録

一 東京都中央区銀座五丁目四番三五

宅地 26.38平方メートル

二 同所四番地

家屋番号 同町五番一三

木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建店舗

床面積 一階 23.14平方メートル

二階 9.91平方メートル

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